AIのニュースは毎週にぎやかですが、先週から今週にかけての主役は、はっきり中国でした。

8月3日、アリババ(Alibaba Cloud)が同社史上最大のAIモデル**「Qwen3.8-Max(クウェン3.8マックス)」を発表しました。一部のベンチマークで米国の最上位モデル超えをうたい、発表を受けてアリババ株は香港市場で7%上昇(CNBC)。そしてその数日前の金曜には、DeepSeekが「有名モデル中ダントツで最安」**と評される新モデルを静かに公開していました(Reuters)。

“性能の頂上”への挑戦と、“価格の底”への挑戦が、同じ週に同じ国から届いた──今日はこの2つをセットでほどきます。

Qwen3.8-Max──「過去最大」の中身

発表の要点は4つです(ITmedia AI+MarkTechPost)。

  • 規模: 総パラメータ2.4兆の「混合専門家(MoE)」型。処理のたびに一部の専門家だけを起動する省エネ設計で、CNBCによれば1回の処理で動くのは約950億パラメータ分
  • 仕様: テキストに加えて画像・動画も入力できるマルチモーダル対応。一度に読み込める量は最大100万トークン(長編小説数冊分)
  • 性能の主張: コーディング系の「Terminal-Bench 2.1」でClaude系の最上位を上回り、「SWE-bench Pro」ではGPT-5.6 Sol超え。一方で別のテスト(DeepSWE 1.1など)では両者に届かず──つまり**「一部で超え」**です
  • 自律性: 空のフォルダから10日以上、人の手を借りずに開発を続けた実証を公開。社内テストでは16日かけてAIコーディングツールを自作・改善したといいます

注意したいのは、これらの数値がすべてアリババの自己申告だという点です。第三者による検証はこれからで、「全面的に米国勢を超えた」わけではありません。

本当のニュースは「来週、無料で配る」

性能の主張より驚いたのは、こちらかもしれません。アリババは来週、Qwen3.8-Maxの重み(モデルの中身)を無料公開すると予告しました。小型版のQwen3.8-27Bも同時にオープン化されます。

  • Max級(最上位級)モデルのオープン化はQwenシリーズとして初
  • 2兆パラメータ超のオープンモデルとしては、7月のKimi K3に続く2例目

つまり「最上位級の性能をうたうモデルが、誰でもダウンロードして手元のサーバーで動かせる」状態が、1カ月に2回起きようとしています。先月のKimi K3公開の衝撃について書いた記事(詳しくはこちら: “最強級AI”が本当に無料配布された──中国「Kimi K3」重み公開と米中の応酬)の流れが、単発ではなく潮流になった形です。

なお、API利用の価格は入力100万トークンあたり2ドル・出力6ドル(キャッシュ済み入力は0.25ドル)と発表されています。

もう一人の主役──DeepSeekの「100分の1」

同じ週の7月31日、DeepSeekは新モデル**「V4-Flash」**を公開しました。調査会社Artificial Analysisのベンチマーク実行コスト比較によると、有名モデルの中で圧倒的な最安値で、Claude Fable 5より100倍以上安いとされます(Reuters)。

  • 料金は入力100万トークンあたり0.14ドル・出力0.28ドル
  • 性能は9種のベンチを合成した指数で50点──GoogleのGemini 3.6 Flashと同点

ここは冷静に見る必要があります。V4-Flashは最上位モデルではなく、**「軽量級の性能を、桁違いの安さで」**というポジションです。ただ、実務で使うAIの多くは「軽量級で十分な仕事」──定型文の生成、分類、要約、チャット応対──だったりします。その領域の値段が壊れ始めた、というのが本質です。

米国側も手をこまねいているわけではなく、7月にはAnthropicが最上位モデルを半額にしています(あわせて読みたい: 半額になった最上位AI)。性能競争と価格競争が、初めて同時に全力で回り始めたのが今の局面です。

中小企業にとっての意味──3つだけ押さえる

1. AIの利用料は「下がる前提」で計画する 最上位級のオープン化と軽量級の価格破壊が同時に進む以上、いま高いと感じる利用料も長くは続きません。「高いから見送る」より、小さく始めて値下がりの波に乗るほうが得です。年間契約で高値に固定するのは慎重に。

2. 1社に縛られない「乗り換えられる形」で使う 最強の座も最安の座も、数週間で入れ替わる時代です。特定モデル専用の作り込みは避け、プロンプトや手順を文書化してモデルを差し替えても業務が回る形にしておきましょう。切り替え候補が増えることは、価格交渉力が増えることでもあります。

3. 「ベンチマーク1位」は買う理由にしない 今回のQwen3.8-Maxも数値は自己申告で、テストによって勝ったり負けたりです。中国製モデルを業務で使う場合は、データの取り扱い・利用規約の確認も必須です。選ぶ基準はいつも同じ──自社の実際の業務データで試した結果だけです。

まとめ

  • アリババが過去最大のAI**「Qwen3.8-Max」**(2.4兆パラメータ)を発表。一部ベンチマークで米最上位超えをうたい、株価は香港で7%上昇した
  • 本命は来週予告されている重みの無料公開。2兆超級のオープン化はKimi K3に続く2例目で、「最上位級を手元で動かす」が潮流になりつつある
  • 同じ週にDeepSeekが100倍以上安い軽量モデルV4-Flashを投入。性能の頂上と価格の底が同時に動いた
  • 私たちの構えは3つ。下がる前提で計画・乗り換えられる形で使う・自社データで検証して選ぶ

参考

※本記事は複数の公開情報をもとに作成しています。