たとえば、こんな朝を想像してみてください。スマホを開くと、AIから短いメッセージが届いている。「今日の打ち合わせが2件重なっています」「先月の請求書が1件、まだ支払われていません。督促メールの下書きを用意しました。送りますか?」──。

AnthropicのAI「Claude」が、こうした働き方に乗り出しました。同社は10月21日(米国時間)、Claudeが自分から動く“常時稼働”のエージェント 「Claude Duet(クロード・デュエット)」 を、お試し版(リサーチプレビュー)として発表しました(Anthropic)。

これまでのAIは、こちらが話しかけて初めて動く「聞けば答える道具」でした。Duetはその逆で、呼ばれる前に、自分から気づいて声をかけてきます。そして注目したいのは、その賢さよりも、「どこまでをAIに任せ、どこからを人が押すか」を、はっきり3段階に分けて作られている ことです。

何が発表されたのか

  • 正体:Claudeが自分から動くエージェントの、独立したアプリ(iPhone・Android向けアプリと、Web版のclaude.ai)
  • 頭脳:Anthropicの上位モデル「Claude Opus 5.5」
  • 対象:まずは 米国 の有料プラン「Pro」「Max」の利用者が、順番待ちのリスト(ウェイトリスト)から。チーム・法人向けのTeam/Enterpriseプランは対象外で、日本での提供時期は発表されていません
  • 料金:お試し版の段階では、Pro・Maxのプランに含まれ、追加料金はなし。ただし使える量(利用上限)は、ほかのClaudeの機能と共有します
  • 想定する利用者:Anthropicは「専門職や中小企業の経営者など、業務を把握しきれない人」向けとしています

“呼ばれる前に”声をかけるAI

Duetの動き方は、ふだんのチャットAIとかなり違います(ITmedia AI+、Impress Watch)。

  • 毎朝、短いブリーフ(まとめ)が届く:メールやカレンダーなど、つないだアプリ全体から、その日の重要なことをまとめて知らせます
  • 数時間おきに見回る:つないだアカウントを数時間ごとに確認し、注意が必要なときだけ 声をかけます。何を・どのくらいの頻度で知らせるかは、利用者が決められます
  • 頼めば仕事もする:会議の日程調整、ダッシュボード(数字をまとめた一覧画面)づくり、財務や売上の予測、試作品やWebアプリの作成まで
  • PCを閉じても動き続ける:クラウド上の仮想マシン(専用のブラウザ付き)で動くため、パソコンやスマホを開いておく必要がありません

つなげる先は、Claudeの連携サービス集「Claude Marketplace」にある 6,000以上のコネクタ・プラグイン(Anthropicの説明)。GmailやSlackのほか、会計のQuickBooks、決済のStripe、給与計算のGusto、電子契約のDocusign、ネットショップのShopifyなど、小さな会社が日々使う業務ツール が名前を連ねます。未払いの請求書を見つけて督促文を下書きする、給与計算を準備する、求人票やフォローのメールを書く──といった使い方が紹介されています。

公式ページには、試した人の声も載っています。不動産の仲介業者は、カレンダー上で内見の日付が間違っていたのをDuetに指摘され、「頼まなくても見つけてほしい、まさにそういうこと」と話しています。飲食店のオーナーは、会計・顧客対応・マーケティングに使っているそうです(いずれもAnthropicが紹介した事例です)。

いちばんの見どころは「3段階の任せ方」

Duetが何を自分で進め、何を人に確かめるのか。Anthropicはここを、3段階に分けて公表しています(Anthropic)。

段階中身
① AIが自分で進める読む、下書きする、準備する
② 人の承認を待つメッセージの送信、支払い、書類への署名、削除(何をするのかを正確に示してから待つ)
③ 承認があってもやらない株などの証券取引、口座間の送金

さらに、次のような守りも説明されています。

  • パスワードやログイン用の情報を、AIが直接見ない仕組み
  • 買い物はStripeの「Link」の仮想カードを使い、本物のカード番号を渡さない
  • 専用の見張り役(分類器)がメッセージを確認し、クレジットカード番号や身分証の情報は共有を断る。健康や個人のお金の情報は、利用者がはっきり指示したときだけ送る
  • つないだアプリは、いつでも切り離せる

ポイントは、「読む・書く」はAIに任せても、「外に出す・お金を払う・約束する・消す」という最後のボタンは人が押す という線の引き方です。このブログでは10月、AIがテスト中に警察へ偽の通報を送っていた事故や、マイクロソフトのCEOがAIに“緊急ブレーキ”をつけるよう説いた話を取り上げました。Duetの設計は、そうした教訓と同じ方向を向いています。

ただし、これらの安全策は Anthropic自身の説明 で、第三者が確かめたものではありません。安全設計の詳しい中身は「数日中に」公開するとしています。

万能ではない──Anthropic自身が認める弱点

Anthropicは、お試し版ならではの弱点も書いています。

  • 会話の流れを読み違えたり、何が急ぎかの判断を誤ったりする ことがある
  • チケット予約のような個人的な用事は、仕事に比べて苦手
  • 動いているブラウザの画面を、まだ利用者に見せられない
  • いつものClaudeアプリとは別のアプリで、連携のしかたはこれから

そして見落としやすいのが、「常時稼働」でも、確認は数時間おき という点です。Anthropicは、ずっと見張り続けると利用上限をすぐに使い切ってしまうから、と説明しています。裏での見回りも上限に数えられ、資料づくりのような大きな仕事はさらに多く消費します。米メディアのEngadgetは、上限に早く達してしまうおそれを指摘しています(Engadget)。

米メディアEveryのレビューでは、「初めて“プロ向けの道具”と呼べる個人エージェント」と評価する一方、メールの下書きの質や、音声は文字起こしでの入力にとどまり、声で会話するモードはまだない点など、荒削りな部分も挙げています(Every)。

「声をかけてくるAI」の競争が始まっている

常時稼働の個人向けエージェントは、Duetが最初ではありません。8月にSpaceXAIの「Grok bot」がベータ公開され、9月にはMetaの「Muse」、OpenAIの「dots」が相次いで登場しました(The Decoder)。Duetは後発ですが、中小企業の経営者を名指しし、会計・決済・給与といった業務ツールを前面に出してきた 点が特徴です。

AIの競争の軸は、「どれだけ賢く答えるか」から、「どれだけ安心して任せられるか」へ広がりつつあります。

中小企業が今から考えておきたい3つ

Duetは、日本ではまだ使えません。ただ、同じタイプのAIは各社から出始めており、少しずつ身近になっていくでしょう。今のうちに準備できることがあります。

① 「任せる仕事」と「自分で押すボタン」を先に分ける

Duetの3段階は、そのまま社内ルールの型になります。

  • AIに任せる:情報を読む、まとめる、下書きする、準備する
  • 人が確かめて押す:社外への送信、支払い、契約、データの削除
  • AIにさせない:口座からお金を動かす操作

道具を入れる前にこの線引きを決めておけば、どのAIを選ぶときにも迷いにくくなります。

② つなぐアプリは「渡す権限」。最初は少なく

AIにつなぐアプリが増えるほど便利になりますが、そのぶんAIに見せる情報と、AIにできることも増えます。最初はメールやカレンダーなど、影響の小さいものから。会計や決済は、使い方に慣れてからにしましょう。いつでも切り離せる方法も、最初に確かめておくと安心です。

③ 「常時稼働」を過信しない

確認は数時間おきで、急ぎかどうかの判断を誤ることもあります。本当に急ぐ連絡は、これまでどおり人が受けられる形 にしておきましょう。また、裏での見回りも利用量に数えられます。「月額に含まれるから実質タダ」と考えず、自分の仕事量でどれだけ使うかを見てから判断するのが安全です。

あわせて、「毎朝AIに教えてほしいこと」と「真っ先に任せたい雑務」を今のうちに書き出しておくと、使えるようになったときにすぐ試せます。

まとめ

AIは「呼んだら答える道具」から、「自分から気づいて声をかける相棒」に変わり始めました。そのとき大事になるのは、AIの賢さそのものより、どこまでを任せ、どこで人がボタンを押すか という線引きです。

Anthropicが示した「読む・下書きはAI、送る・払う・署名・消すは人、お金を動かす操作はAIにさせない」という3段階は、どの会社がAIに仕事を任せるときにも、よい出発点になります。日本で使えるようになる前に、自社の線引きを決めておきましょう。


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参考

本記事は複数の公開情報をもとに作成しています。提供範囲や機能は、今後の発表で変わる可能性があります。