毎朝、道具の話をしています。今日は、多くの人が毎日ポケットに入れている“あの秘書”の話です。
Appleが、音声アシスタント Siri を全面刷新した「Siri AI」を投入しました。会話が続き、文脈を理解し、アプリやデータをまたいで動く——これまでの「タイマーをかけて」止まりだったSiriとは別物、というのが各社の受け止めです。
そして同じタイミングで、もう一つ興味深いことがわかりました。コード解析によって、この新しいSiriは“頭脳”そのものを他社のAIに差し替えられるように設計されていることが判明したのです。あなたのiPhoneの秘書の中身を、ChatGPTやClaudeに入れ替える——そんな未来の設計図が、製品のコードの中にすでに描かれていました。
ただし、ここが今日いちばん大事なところです。「じゃあ今すぐSiriをClaudeに変えられるのか」というと、まだできません。 何が起きていて、何がまだなのか。事実と“まだできないこと”を分けて見ていきます。
何が起きたのか
大きく2つの動きが、ほぼ同時に起きました。
1つ目は、刷新Siriの発進。 新しい「Siri AI」は、iPhoneやMac、iPadなどをまたいで動くシステム連携型のアシスタントとして刷新され、2026年9月中旬に iOS 27 や新しいmacOS(開発名 Golden Gate)とともに順次提供が始まりました(もともとは初夏のWWDC 2026で予告されていたものです)。会話的で文脈を理解する——という点が、旧Siriからの一番の変化として語られています。
2つ目は、そのSiriの“中身の差し替え”設計がコードから見つかったこと。 あるコード解析者が、iOS 27やmacOSの非公開フレームワークの中に、Siriを他社AIモデルと連携させる仕組みが、思っていたより深いところまで作り込まれているのを発見しました(MacRumorsが9月14日に報道)。
なお、報道の中には「新Siriの頭脳自体が、Appleのプライバシーインフラ(Private Cloud Compute)上で動くGoogle製モデルをベースにしている」という指摘もあります。ただしこれはApple公式が明言したものではなく、報道ベースの情報として、ここでは参考にとどめます。
「頭脳の差し替え」とは、どういうことか
コードから見つかった仕組みは、大きく2種類あります。専門用語ですが、意味はシンプルです。
- モデル委譲(Model Delegation):検索や質問を入力する欄の「Ask…(〜に聞く)」メニューから、Claudeなどの他社AIを“Siriの拡張”として選べるという設計です。おもしろいのは、Apple独自の機能(アプリ操作など)が必要な場面では、選んだ外部AIが処理をSiriに戻して実行させること。表向きの受け答えは他社AI、機械の操作はSiri、という分担です。
- 推論プロバイダの差し替え(Inference Provider):さらに踏み込んだ仕組みで、Siriの“中枢モデル”そのものを別のAIに丸ごと置き換えられる設計です。置き換えたAIは、Apple純正の指示書(どう段取りするか)や、使える道具のリストを受け取り、システム操作や個人データへのアクセスまで担えるようになります。
たとえるなら、これまで“備え付けの一体型”だった秘書が、頭脳の部分だけ差し替えられるモジュール式になった、というイメージです。用途に応じて「調べ物はこのAI、文章はあのAI」と選ぶ——そんな世界の土台にあたります。
ただし——今すぐ差し替えられるわけではない
ここを誤解しないことが、今日の記事でいちばん大切です。
見つかったのは「そういう設計がコードに存在する」ということであって、利用者が今すぐ使える機能ではありません。 具体的には——
- 「Ask…」で実際に使えるのは、今のところ ChatGPT だけ。Claudeなどは配線こそ通っていますが、まだ有効化されていません。
- Appleは、他社AIをSiriに差し込むための“鍵”(権限)をまだ第三者に開放しておらず、ユーザーの見える画面にも出していません。
- そもそも刷新Siri自体、順番待ち・英語のみでのスタートで、EUと中国では提供されていません(EUは規制〈DMA〉を理由にiPhone/iPadで見送り)。日本での提供可否・時期も、現時点では確認できていません。
つまり今は、「配線は通っているが、スイッチはまだ入っていない」段階。設計思想としては“差し替え可能”が見えているけれど、実際に切り替えられる日がいつ来るかは、これからの話です。
なぜ、この設計が大きいのか
それでも、この一件が注目に値するのは、AIアシスタントの“ベンダー固定”が崩れる方向をはっきり示しているからです。
これまでは「iPhoneならSiri(+一部ChatGPT)」のように、端末とAIがセットで決まっていました。それが、端末(Siri=土台)とAIの頭脳(ChatGPT/Claude/Geminiなど)を分けて選ぶ構図に変わろうとしています。実際Appleは、Siriや文章作成・画像生成の機能を第三者AIに開放し、設定から好みのAIを選べるようにする方向(iOS 27の「Extensions」)を示してきました。今回のコード発見は、その配管が本当に作られつつあることの裏づけです。
この“同じ器に複数のAIが並び、用途で選ぶ”流れは、スマホに限った話ではありません。職場のツールでも同じことが起きています。たとえばMicrosoft 365のCopilotには、複数の最新AIが相次いで載り、同じ画面の中で選べるようになりました。「1社と契約して終わり」ではなく、“どのAIに、どの仕事をさせるか”を利用者が選ぶ——その流れが、いよいよ手元のスマホにも降りてきた、というわけです。
中小企業の私たちが押さえる3点
まだ日本で使える機能ではありません。それでも、知っておくと判断がぶれない3点を挙げます。
- 「すぐ来る」前提で動かない。 今わかったのは設計であって、機能ではありません。今日時点で使えるのはChatGPT連携のみ、地域・言語の制約もあり、日本の提供時期は未定です。“いつか選べるようになる”を頭の隅に置きつつ、目の前の業務はいま使える道具で進めるのが堅実です。
- 「AIの中身を選べる」は、責任も選ぶということ。 頭脳を差し替えられる設計では、選んだ外部AIが個人データやシステム操作に触れられる場面が出てきます。便利さの裏で、そのAIに何を渡すのか(データの行き先)と、どこまで操作を許すのか(権限)を確認する習慣が、これまで以上に大事になります。会社のスマホやアカウントで使うなら、なおさらです。
- “秘書の中身を選ぶ”視点を持っておく。 これからは、AIを「どの会社のものか」だけでなく、「自社のこの仕事に、どのAIが向くか」で選ぶ時代に向かいます。調べ物・下書き・要約・翻訳——用途ごとに得意なAIは違います。自社のよく使う作業を洗い出しておくと、選べるようになったときに迷いません。
まとめ
スマホの秘書が、中身(頭脳)を選べるモジュール式に変わろうとしています。刷新Siriが発進し、そのSiriをChatGPTやClaudeに差し替えられる設計が、コードから見つかりました。
ただし現時点では、使えるのはChatGPT連携のみ・地域や言語の制約あり・日本の時期は未定。「配線は通ったが、スイッチはまだ」という段階です。過度に先取りせず、“AIの中身を選ぶ時代”の設計思想だけ、先に理解しておく。それが、いざ選べるようになったときに、あわてず自社に合った選択をする近道です。
本記事は、複数の公開情報をもとに作成しています。新Siriの中身に関する一部情報や提供時期は報道段階のものを含み、今後変わる可能性があります。
参考
- Apple Newsroom(公式): Due to DMA, Siri AI delayed in EU for iOS 27 and iPadOS 27
- MacRumors: Apple’s Siri AI Can Be Swapped Out for Claude, ChatGPT, Code Shows(2026-09-14)
- MacRumors: iOS 27 Will Let You Pick Claude or Gemini Instead of ChatGPT for Apple Intelligence
- MacObserver: Siri AI Is Not Available in the EU on iPhone — Apple’s DMA Dispute