新しく入ってきた人に仕事を教えるとき、いちばん確実な方法は「隣でやって見せる」ことではないでしょうか。マニュアルを書くより早いし、細かいコツも伝わる。

その「やって見せる」が、そのままAIへの教え方になる——そんな機能が登場しました。

米Anthropic(アンソロピック)は現地時間2026年7月21日、AIアシスタント「Claude(クロード)」の作業空間「Claude Cowork」に、新機能**「Record a skill」**の提供を開始しました。自分のPC画面を録画しながら、いつも通りに作業して声で説明するだけ。Claudeがその一部始終を解析し、同じ作業を再実行できる「スキル」として覚えてくれるというものです。

「プロンプトをうまく書けないとAIは使いこなせない」と感じてきた人にとって、これは大きな転換点になるかもしれません。今日はこの新機能の中身と、中小企業がどう受け止めればいいかを整理します。

何ができる機能なのか

仕組みはシンプルです。報道によれば、使い方はこうなります。

  1. Claudeデスクトップアプリの「+」メニューから「Record a skill」を選ぶ
  2. 画面録画を開始し、いつも通りの手順で作業する(例:経費のレシートを整理してスプレッドシートに転記する)
  3. 作業しながら、「ここはこういう理由でこうする」と声で補足する
  4. 録画を終えると、Claudeが画面操作・クリック・キー入力・音声解説をまとめて解析し、再実行可能な「スキル」に変換して保存する

保存されたスキルは自分のスキルライブラリに入り、次回からはコマンド一つで呼び出せます。ITmediaによれば「/file-expenses」のようなコマンド形式で保存されるとのこと。手順書もプロンプトも書かずに、「実演」だけでAIに定型作業を引き継げるわけです。

対象はPro・Max・Teamの有料プラン。無料プランでは使えません。

ちなみにOpenAIのAIエージェント「Codex」にも「Record & Replay」という類似機能が2026年6月からあり(Mac向け)、ITmediaは今回の機能を「Codex対抗か」と見ています。「見せて教える」型の自動化は、いまAI各社の競争軸になりつつあるのです。

なぜ画期的か──自動化の最大の壁は「教える手間」だった

「AIで業務を自動化しましょう」という話は、これまで何度もありました。しかし現場で止まる理由はたいてい同じです。

自分の仕事のやり方を、言葉にしてAIやツールに教えるのが大変なのです。

Record a skillが狙うのは、まさにここです。言語化する代わりに、1回やって見せればいい。作業が得意な人が録画を1本撮れば、それがそのままチームの「引き継ぎ資料」ならぬ「引き継ぎスキル」になる——そんな仕事の移し方が現実味を帯びてきます。

パソコン操作をAIが代行する「コンピュータ操作エージェント」の流れは、以前から本ブログでも追いかけてきました。今回の機能は、その流れに「教える側の負担をなくす」というピースを足すものです。 詳しくはこちら:画面を操作するAIエージェントの基礎と注意点

向く仕事・向かない仕事

とはいえ、なんでも任せられるわけではありません。仕組み上、得意・不得意ははっきりしています。

向いているのは、「手順が決まっていて、毎回同じ」作業です。

  • レシートや請求書の整理・転記
  • 定例レポートの作成・フォーマット整え
  • ファイルのリネーム・フォルダ整理
  • 複数システムへの同じ内容の入力

向いていないのは、「その場の判断」が多い作業です。録画に映るのはあくまで操作の手順。あなたが頭の中でやっている「この取引先は特別扱い」「この金額なら上司に確認」といった暗黙の判断は、画面には映りません。声で補足できるとはいえ、例外対応まで正しく覚えたかは保証されないのです。

これは実は、従来のRPA(作業自動化ツール)と同じ構図です。変わったのは「作る手間」が録画1本まで下がったこと。「どの仕事を任せるか」の見極めが大事という点は、変わっていません。

試す前に押さえたい3つの注意点

便利さの一方で、画面録画をAIに渡す機能ならではの注意点があります。試すなら、次の3つを先に決めておきましょう。

① 録画に「映してはいけないもの」を映さない 画面録画ベースである以上、顧客情報・パスワード・機密資料が映り込むリスクがあります。録画前に不要なウィンドウを閉じる、ダミーデータで録画する、といった基本動作をルール化しておきましょう。

② できあがったスキルは「初回は必ず人が確認」 例外処理や判断の条件まで正しく抽出されたかは、人間の検証が必要と指摘されています。最初の数回は結果を必ず目視で確認し、間違っても被害が小さい作業から始めるのが現実的です。

③ 「どこまでの権限を渡すか」を先に決める 作業を代行するということは、AIがあなたのPCやデータに触れるということです。お金の支払い・外部へのメール送信のような「重い操作」は人間の確認を挟む——この原則は、自動化がどれだけ手軽になっても変わりません。 詳しくはこちら:AIに「権限」を渡す前に考えたいこと

まとめ──「教え方」が変わると、任せ方が変わる

今回のポイントを整理します。

  • Anthropicが7月21日、Claudeに**「Record a skill」**を追加。画面録画+音声解説だけで、AIが作業を再実行可能なスキルとして覚える(Pro・Max・Team向け)
  • プロンプトや手順書の言語化が不要になり、自動化の最大の壁だった「教える手間」が録画1本に
  • 向くのは手順が決まった定型作業。暗黙の判断が多い仕事は不向き
  • 試すなら、機密の映り込み防止・初回の目視確認・権限の線引きを先に決める

「AIを使いこなす」というと、これまでは上手な指示文を書く技術の話でした。それが「上手にやって見せる」に変わっていくなら、現場の仕事に詳しい人ほどAIを使いこなせる時代になります。中小企業にとっては、追い風と言っていいはずです。

まずは自社の業務の中から「毎回同じ手順の10分作業」を一つ探すところから始めてみてください。事務作業をAIに任せる際の考え方は、こちらの記事もどうぞ。 詳しくはこちら:事務をAIに任せる前に決めておきたいこと

参考

本記事は複数の公開情報をもとに作成しています。