AIに仕事を頼んで、こんな経験はないでしょうか。

  • それらしい数字や事実を、根拠もなく書いてくる
  • 頼んでいないところまで、勝手に直してしまう
  • 「できました」と言うのに、肝心なところが残っている

Googleが米国時間10月28日に発表した新しいAI 「Gemini 4 Carbon(ジェミニ4 カーボン)」 は、この3つにあたる失敗を 「前のモデルよりどれだけ減らしたか」 を、新モデルの売りとして数字で示しました(Google公式ブログ)。

賢さの順位表で首位を取ったという話より、こちらのほうが、AIを仕事で使う私たちにとってはずっと身近な話です。

何が発表されたのか

2週間で、次の「最強」

Googleは9月30日に「Gemini 4 Argon(アルゴン)」を発表し、10月13日にはGeminiアプリの有料プラン(Google AI Pro・Ultra)で使えるようにしたばかりでした(Google公式ブログ)。Carbonは、そのArgonから 約2週間 での投入です。Googleは、最先端をどれだけの速さで押し進めているかを示すものだと説明しています。

性能:首位。ただし差は1点

Googleによると、Carbonは第三者の評価機関Artificial Analysisの総合指数(v5.0)で 59点の首位 になりました(同機関も首位と発表)。ただ、Anthropic「Claude Opus 5.5」(58点)との差は1点で、同じ評価機関のAIエージェントのコーディング指数では、Opus 5.5に次ぐ2位です(Digital Trends、Pasquale Pillitteri)。

Googleがとくに強調しているのはサイバーセキュリティで、ソフトの弱点(脆弱性)を見つける試験「SEC-bench Pro」で88.2%、弱点を直す試験「CWE-bench」で71.0%などの数字を公表しています(安全装置を外した状態での評価)(9to5Google)。

使えるのは、まず「守る人」から

最初に使えるのは、Googleが選んだ 一部のサイバー防御の担当者 です。その後、「Fairwind(フェアウィンド)プログラム」を通じて信頼できるパートナーへ段階的に広げ、開発者・企業・一般の利用者には 「できるだけ早く」 提供するとしています。具体的な日付は示されていません。米国政府による任意の公開前テストにも参加しています。

価格はArgonと同じ

導入価格は、Argonと同じ 100万トークンあたり入力2ドル・出力10ドル。導入期間のあとは入力4ドル・出力20ドルになります(切り替えの時期は未公表)。

つまり、いま私たちが使えるのはCarbonではなくArgon です。最強のモデルを、まず守る側に配るというGoogleの出し方は、Argonのときと同じです。

「数日働く」AIのために、Googleが減らした3つ

Googleは、Carbonを「長い時間をかけて自分で進めるエージェント型の作業」のために作ったと説明しています。社内では、Carbonが 数日間 動き続け、行き詰まりを乗り越えながら、大きなプログラムに潜む見つけにくい不具合の原因を突き止めて直すのを見てきた、といいます。

1回の質問なら、人がすぐに間違いに気づけます。でも、何十もの手順を自分で進めるAIだと、最初の小さなズレに気づいたときには、その上に作業が積み上がっていることがあります。長く任せるほど、「賢さ」と同じくらい「任せて大丈夫か」 が問われるわけです。

Googleが示した改善は、前のArgonと比べた社内テストの結果です。

減らしたものひとことで言うとGoogleの公表値(Argon比)
根拠のない主張盛らない約半分に
やりすぎ(overreach)はみ出さない26%減
やらなさすぎ(under-service)やり残さない29%減

※「やりすぎ」「やらなさすぎ」の細かい定義は、Googleは示していません。「ひとことで言うと」の列は、この記事による言い換えです。

Googleは、やりすぎとやらなさすぎを同時に減らしつつ、「プロジェクトの制約を守り、範囲から厳密に出ない」まま、何段階もある計画を最後までずっと確実に実行できるようになったとしています。

ほかにも、コマンド操作で課題を解く試験(Terminal-Bench 4.0)で ズルをして正解にする行為の成功が0.0%(ズルの試みは0.4%)になり、社内の実際の開発環境で、AIが意図から外れた動きをしたことを示す 重大な警告が約80%減った と説明しています。

振る舞いの面では、次の3つを挙げています。

  • やり方についての 注意書きを、成果物そのものに書き込む
  • 止められた操作は実行せず、「あと何が必要か」の一覧 を示す
  • あいまいなときは推測で進めず、関連する資料を取りに行き、食い違いを利用者に示してから動く

冷静に見ておきたい4つのこと

  1. 数字はGoogle自身のテスト:改善の数字はいずれもGoogleの社内テストや提携先の報告で、第三者による再現はまだありません(Interesting Engineering)。
  2. 「0%」は特定の試験の結果:外から紛れ込ませた指示でAIを操る攻撃(間接プロンプトインジェクション)の試験でも攻撃成功率0.0%(Argonは0.7%)とされますが、これも決まった条件での結果で、だまされないことの証明ではありません。
  3. 首位は1点差:総合で首位でも、コーディングのエージェント指数では他社が上です。「すべてで最強」ではありません。
  4. 「数日動いた」のはGoogleの社内:一般の私たちはまだ使えず、提供日も未定です。日本での提供時期も示されていません。

なぜ今、「盛らない」が売りになるのか

最上位のAIの賢さは、1点を争うところまで差が縮まりました。しかも新しいモデルは2週間で次が出ます。賢さの数字だけでは違いが見えにくくなるなかで、AIに「長く・任せて」働いてもらう時代に問われるのは、任せた仕事を、盛らず・はみ出さず・やり残さずに終えられるか ではないか──というのが、この記事の見方です。

10月28日の記事で紹介したAnthropicの上場書類でも、コードの追加・変更の9割超をAIが書く会社で、エンジニアの役割は「自分で書く」から「指示して確かめる」へ移っていました。AIの作り手が「任せて大丈夫か」を数字で示し始めたことと、使う側の仕事が「確かめる」に移っていることは、表裏の関係にあると言えそうです。

中小企業がAIに任せる前に決めたい3つ

Carbonはまだ使えません。でも、Googleが減らしたという3つの失敗(盛る・はみ出す・やり残す)は、いまお使いのどのAIでも起きます。モデルの進化を待つより先に、任せ方で減らせます。

① 「やること」と同じだけ、「やらないこと」を書く(はみ出し対策)

  • 依頼文に「触ってはいけないもの」を書く。例:「表の数式は変えない」「お客様には送らない(下書きまで)」「このフォルダ以外は開かない」
  • 支払い・送信・削除など、取り消せない操作の前は必ず止まって確認させる
  • 「迷ったら、進めずに質問して」と一言添える

② 報告に「根拠」「確かめていないこと」「残っていること」の3つを書かせる(盛り・やり残し対策)

  • Carbonが自分でやるという振る舞い(注意書きを成果物に入れる・残りの一覧を示す・食い違いを先に示す)は、いまのAIにも依頼文で求められます
  • 例:依頼文の最後に「最後に、①数字や事実の根拠(出典)、②確かめられなかったこと、③できなかったこと・残っている作業を、箇条書きで書いてください」と足す
  • 「できました」だけの報告は受け取らない、を社内のルールにする

③ モデルは2週間で替わる。残す資産は「任せ方の書き方」

  • 依頼文のひな形、合格の基準、自社の実際の仕事から作った試し問題(3〜5問)を、1つのファイルにまとめて保存 しておく
  • 新しいAIが使えるようになったら、同じ依頼文・同じ問題で試し、盛る・はみ出す・やり残すが減ったかを見る
  • 乗り換えは、モデルの名前や順位ではなく、「自社の仕事で、任せて大丈夫か」 で決める

まとめ

Googleの新しいAI「Gemini 4 Carbon」は、総合の順位表で首位に立ちました。でも、本当に注目したいのは、数日がかりの仕事を任せるために、根拠のない主張・やりすぎ・やらなさすぎを「どれだけ減らしたか」 を売りにしたことです。

その数字はまだGoogle自身のもので、私たちはCarbonをまだ使えません。それでも、「やらないことを書く」「根拠と残りを報告させる」「任せ方の書き方を残す」の3つは、今日、いまのAIで始められます。どのAIに乗り換えても、この3つはそのまま使えます。


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参考

本記事は複数の公開情報をもとに作成しています。性能や改善の数値はGoogleの公表に基づくもので、第三者による検証はまだ行われていません。提供の時期・価格は今後変わる可能性があります。