あなたの会社のサイトに、新しいタイプの「お客」が来始めています。その正体は、人間ではなくAIです。

日本経済新聞は8月31日、花王や森永が「AIに選ばれるサイト」への対応に動いていると報じました。ChatGPTなどのチャットAIに相談しながら買い物をする人が増えており、「AIが読み、AIが推薦するサイト」への作り替えが、日本の大手ブランドでも始まったことを示す報道です。

「AIに選ばれる」とはどういうことか。なぜ大手が動くのか。数字で見ていくと、これは大企業だけの話ではないことがわかります。

何が起きているか:AI経由の客は「少ないが、よく買う」

米Adobeが自社の分析基盤(米小売サイトへの1兆超の訪問を計測)で追いかけている数字が、この変化を最もはっきり示しています(TechCrunchより)。

  • AI経由の小売サイト訪問は、2026年1〜3月に前年比393%増(約5倍)
  • AI経由の訪問者が購入に至る率は、従来の訪問者より42%高い(2026年3月時点)
  • 訪問あたりの売上も37%高く、滞在時間は48%長い

注目すべきは2つ目です。1年前の2025年3月時点では、AI経由の訪問者の購入率はむしろ38%低いものでした。それがわずか12か月で逆転し、いまや「最も購入につながりやすい入口の一つ」になっています。AIに相談した上でやって来る人は、すでに比較検討を終えていると考えられるためです。

つまりAI経由の来訪者は、まだ数こそ少ないものの、「下調べを済ませた、購買意欲の高いお客」なのです。

消費者側も変わっている:3人に2人がAIに買い物相談

日経ビジネスが紹介した調査によれば、先進国の消費者の約3人に2人が、年末の買い物でAIの助けを借りる予定と答えています。18〜24歳に限れば6人に5人。マッキンゼーは、2030年までに世界で3兆〜5兆ドル(約470兆〜780兆円)の買い物がAIエージェント経由になると予測しています。

「検索して、一覧を見比べて、サイトを回る」から、「AIに相談して、勧められたものを見に行く」へ。買い物の入口が変わり始めています。

ところが、サイトの3割は「AIに閉店中」

ここに大きな落とし穴があります。Adobeの同じ調査は、米小売サイトの商品ページの約34%は、AIがアクセス・解読できないと指摘しています。ホームページやカテゴリページも、約25%がAIの読めない作りのままです。

人間のお客には開いている店が、AIというお客には閉まっている──画像の中に文字を埋め込んだ商品説明、PDFだけの価格表、スクリプトを実行しないと何も表示されないページ。人間には見えても、AIには「何も書いていないサイト」に見えることがあります。

AIが読めなければ、AIの答えに載らない。答えに載らなければ、「比較検討を終えた買う気のお客」は、読める競合サイトへ案内されます。花王や森永のような大手が動き出した理由は、ここにあります。

勝負どころは「決済」ではなく「候補に入ること」

「AIで買い物」と聞くと、チャットの中で決済まで済む未来を思い浮かべるかもしれません。しかし、その部分はまだ試行錯誤の段階です。実際、OpenAIがChatGPT内での直接購入機能として2025年9月に発表した「Instant Checkout」は、わずか半年で廃止が発表されました

一方で、「AIに相談して選び、サイトに来て買う」という流れそのものは、先ほどの数字のとおり急伸しています。つまりいま起きている競争は、決済の奪い合いではなく、**AIが答えを組み立てるときの「候補に入れるかどうか」**の競争です。

検索エンジンの上位を取り合うSEOに対して、AIの答えの中に選ばれるための最適化はAEO(Answer Engine Optimization)LLMOと呼ばれ、国内でも対策ツールや専門会社が次々に生まれています。国内では、LINEヤフーが「Yahoo!ショッピング」でChatGPTと連携し、対話で商品選びを支援する取り組みも報じられました。

中小企業への持ち帰り:明日からできる3つの備え

大手が専門部隊で取り組む話に見えますが、実は基本の対策はシンプルで、中小企業のサイトでも十分に手が届きます。

  1. 大事な情報を「文字」で書く: 価格、仕様、対応エリア、納期、よくある質問──AIに知ってほしい情報が、画像の中やPDFの中に埋まっていないか点検しましょう。本文のテキストとして書いてあることが、すべての出発点です
  2. 自社にしか書けない一次情報を持つ: AIは「どこにでもある説明」を引用しません。実測データ、施工事例、料金の根拠、現場のノウハウなど、自社だけの具体的な情報こそがAIの答えに引用され、推薦の根拠になります
  3. 「AIの答えに自社が出るか」を定点観測する: ChatGPTなどに「〇〇(地域名)でおすすめの△△は?」と自社の商売の質問をしてみてください。出てくるか、何と紹介されるか、競合は誰か。検索順位と同じように、月に一度見ておくだけで変化に気づけます

まとめ

  • 花王や森永が「AIに選ばれるサイト」への対応に動いたと日経が報道。チャットAI経由の買い物増への備えが、日本の大手でも始まった
  • 米国ではAI経由の小売サイト訪問が前年比393%増。AI経由の客は購入に至る率が42%高い「買う気のお客」に育った
  • 一方で商品ページの約34%はAIが読めないまま。読めなければ、AIの答え=推薦の候補に入れない
  • チャット内決済は一度撤退しており、勝負どころは「候補に入ること」。文字で書く・一次情報を持つ・AIの答えを定点観測する、の3つは中小企業でも今日から始められます

サイトの新しい来店客は、もう入口まで来ています。店を開けておきましょう。

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参考

本記事は複数の公開情報をもとに作成しています。