「セプテンバー」「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」「ハレルヤ」──誰もが一度は聴いたことのある名曲の歌詞で、AIは育っていた。音楽業界がそう主張して、ついに法廷に持ち込みました。
米国時間8月28日(金)夜、ソニー・ミュージック・パブリッシングとワーナー・チャペル・ミュージック、およびその関連会社を含む35の音楽出版社が、Claudeを開発するAnthropicをカリフォルニア州の裁判所に提訴したと報じられました。訴えられたのは会社だけではありません。共同創業者のダリオ・アモデイ氏とベンジャミン・マン氏が、個人としても被告に含まれています。
先日お伝えした「本を食べるAI」──書籍を巡る学習データ争奪戦の、次の主戦場は音楽です。
何が起きたか:残っていた「2大手」がついに動いた
訴状の内容として報じられている原告側の主張は、次のようなものです。
- Anthropicは「違法なトレント・スクレイピング・大規模ダウンロードの臆面もないキャンペーン」によって、著作権のある楽曲を大規模に取得した
- 対象は「数万曲」規模。これまでの音楽系訴訟(500曲規模)より桁違いに広い
- レーベルに対価を払って歌詞を掲載しているライセンスサイト(MusixMatch、LyricFind)からも、無断でスクレイピングした
- 「史上最大かつ最も露骨な、進行中の知的財産窃盗の一つ」である
報道によれば、訴状にはマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの「Ain’t No Mountain High Enough」、ボン・ジョヴィの「Livin’ On a Prayer」、アース・ウィンド&ファイアーの「September」、レナード・コーエンの「Hallelujah」、テイラー・スウィフトの「Paper Rings」などが、学習データに含まれていた例として挙げられています。
なお、これらはあくまで原告側の主張です。Anthropicは報道に対し、主張に異議を唱え法廷で争う姿勢を示したと伝えられています。
請求の構造:1曲15万ドル×数万曲
今回の請求には、金額を大きく膨らませる2つの柱があります。
- 侵害1作品につき最大15万ドル──米著作権法が定める法定損害賠償の上限です
- 著作権管理情報(CMI)の削除・改変1件につき2万5,000ドル──原告側は、Anthropicが曲名や作者などの権利情報を組織的に取り除き、Claudeが出所を示さずに歌詞を出力できる状態にしたと主張しています
対象が数万曲に及ぶため、満額が認められれば総額は数十億ドル規模になりうる──というのが報道各社の試算です(確定した請求額ではありません)。原告側は差止命令も求め、陪審裁判を請求しています。
なぜ今か:音楽大手が「総出」になるまで
Anthropicと音楽業界の争いは、今回が初めてではありません。時系列で見ると、包囲網が段階的に狭まってきたことがわかります。
- 2023年: ユニバーサル・ミュージック系やコンコードなどが提訴。このときの対象は歌詞「少なくとも500曲」
- 2025年8月: 同訴訟で「BitTorrentで歌詞を海賊版共有していた」との主張が追加
- 2025年9月: 別の戦線だった書籍では、著者らの集団訴訟にAnthropicが15億ドルを支払って和解
- 2026年: コンコード・ユニバーサル系が30億ドル超を求める訴訟へ発展と報道
- 2026年8月28日: 残っていたソニーとワーナーの2大手系列・35社が参戦
これで音楽出版の大手は、事実上の「総出」となりました。
注目したいのは、書籍の一件で示された線引きです。書籍を巡る訴訟では、学習に使う本の入手経路が大きな争点となり、15億ドルという巨額の和解に至りました。今回の音楽訴訟も、トレントやスクレイピングといった「入手経路」を主張の中心に据えています。AIに学ばせること自体の是非ではなく、「どうやって手に入れたか」が勝負どころになっている──これが、いまのAI著作権訴訟の構図です。
中小企業への持ち帰り:「データの出所」は値札になる
大手AI企業と音楽業界の巨額訴訟は、遠い世界の話に見えるかもしれません。しかし、AIを業務で使う側・コンテンツを作る側の両方に、実務的な含意があります。
- AIの出力に「誰かの著作物そのまま」を使わせない: 今回の訴訟の核心は「Claudeが歌詞をそのまま出力できた」という主張です。生成AIの出力に歌詞・記事・キャッチコピーなどがそのまま混ざれば、使った側もリスクを負います。「生成物を公開する前に、既存著作物の丸写しがないか確認する」を社内ルールにしておきましょう
- 学習データの透明性を、ツール選定の基準に加える: 巨額訴訟や和解金は、いずれサービスの値上げ・提供条件の変更として利用者に跳ね返る可能性があります。学習データの出所や権利者への補償方針を公表しているかは、AIサービスの「持続性」を測る材料になります
- 自社のコンテンツも「食べられる側」になりうる: ブログ、マニュアル、写真──自社サイトのコンテンツは、AIの学習対象になりえます。守りたいコンテンツがあるなら、利用規約への明記やクローラー制御など、意思表示の手段を検討する価値があります
まとめ
- ソニー・ミュージックとワーナー・チャペルなど35の音楽出版社が、Anthropicと共同創業者2名(個人)を提訴。「数万曲を無断で学習に使った」と主張
- 請求は1曲最大15万ドル+権利情報の削除1件2万5,000ドル。満額なら数十億ドル規模との報道試算。Anthropicは争う姿勢
- 書籍の15億ドル和解に続き、争点は「学習の是非」ではなく「入手経路」へ。学習データの出所が、AI企業の経営リスクそのものになった
- 使う側は「出力に他人の著作物を混ぜない」、作る側は「食べられる側になりうる」前提の備えを
訴訟の行方は長期戦になるとみられます。続報があれば取り上げます。
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参考
本記事は複数の公開情報をもとに作成しています。
- Engadget: Sony and Warner sue Anthropic for ‘blatant violation’ of copyright law
- SCMP: Sony Music, Warner accuse Anthropic of ‘blatant theft’ in major new lawsuit
- Yahoo Finance: Music publishers sue Anthropic, allege “blatant theft” of copyrighted music
- 中央日報日本語版(Yahoo!ニュース): 「スウィフトの歌盗んだ」…また訴訟起こされアンソロピック
- Musicman: 三大AIのアンソロピック 歌詞をファイル共有したと大手音楽出版らが訴訟を拡大
- 時事通信: 2200億円支払いで和解 AI学習著作権訴訟―米新興企業